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当研究室で取り組んでいる研究内容

1. 光と運動によるヒト生物時計の調節メカニズムの解明

2. 日常生活下におけるヒト生物時計の光同調機構の解明

3. 習慣的な運動が生物時計中枢および生物時計の階層構造に与える影響

4. ヒト生物時計の季節変動に関する研究

5. 生物時計を考慮した健康的な生活・労働環境の提言

6. 乳酸菌YRC3780株の健康効果に関する研究

   (よつ葉乳業株式会社との共同研究) 

7. ウェアラブル型高照度光装置の機能性評価

   (電制コムテック株式会社との共同研究) 

概要

 ヒトを含め哺乳類の行動(睡眠覚醒)と生理・生化学現象を長時間にわたり計測すると明瞭な24時間周期のリズム(概日リズム)を観察することができます。概日リズムは、昼夜変化がなく時刻情報を排除した恒常環境においても継続しますが、その周期は24時間とはわずかに異なる周期となります。例えば、ヒトでは時間隔離実験室の中で自由に生活させる条件では約25時間の周期となります(フリーランリズム)。哺乳類における概日リズムの発振中枢は、視床下部の視交叉上核に局在します。生体内に存在する生物時計である。生物時計を調節する最も強力な環境因子は太陽光(高照度光)である。私たちの生物時計は、朝方の太陽光によって24時間の環境周期に同調し、時刻情報を全身に発振することで生理機能の時間的統合を達成している。一方、運動、食事、生活スケジュールなどの非光因子は肝臓、肺、骨格筋など末梢臓器のリズム調節に関与する。
 生物時計の役割は、私たちが毎日昼間に十分活動し、夜間に良質な睡眠をとれるように生体内の環境を調節することである。そのため、私たちが生涯にわたって健康な生活を送るには、生物時計の構造および機能を理解すると共に、ライフステージや各自の生活習慣に応じて生活リズムを積極的にデザインし、最適化していくことが求められています。

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健常成人を対象とした実験

1) 睡眠・生体リズム実験室(生理系実験室内)

 照度・温湿度をコントロール可能な実験室

2) 睡眠覚醒リズム測定

  腕時計型行動測定装置(アクチウォッチ)

  睡眠日誌

3) 体温リズム測定 

  直腸温、皮膚温、データロガー (グラムLT8B, 日装機サーモN543)

4) 心拍変動測定

  R-R間隔連続測定装置 (GMSアクティブトレーサーAC301)

5) 唾液中ホルモン測定

  唾液中メラトニン、唾液中コルチゾル等

  メラトニンラジオイムノアッセイ、ELISAアッセイ

6) 睡眠脳波測定 (Polymate AP108) 

動物を対象とした実験 (理学部ゲノムダイナミクス研究センター)

1) 行動リズム測定

2) 生物発光による時計遺伝子発現リズム計測

3) 免疫組織化学法

4) in vivo マイクロダイアリシス法

5) 血中ホルモン測定 

現在までの主な研究成果

運動によるヒト生物時計の非光同調機構の解明

ヒトの生体リズムは体温やメラトニンを制御する時計(中枢時計・主振動体)と睡眠覚醒リズムを制御する時計(末梢時計・従属振動体)から構成される2振動体モデルが想定されています。運動が2つの振動体のうちどちらに作用するのかは長年明らかになっていませんでした。我々は、20代健常成人男性を対象に光同調の影響しない低照度に設定した時間隔離実験室内で運動が睡眠覚醒リズムとメラトニンリズムのどちらに作用るのかを検証しました。この実験により、習慣的な運動は睡眠覚醒リズムを制御する振動体の同調因子として作用し、メラトニンリズムに対する作用は弱いことを明らかにしました。また、一部の運動群の被験者ではメラトニンリズムが位相前進したことから、運動は睡眠覚醒リズムを介して2次的にメラトニンリズムに作用することが推測されました。この研究は被験者の睡眠時間帯を8時間前進させるスケジュールを使用していたことから、時差ボケの早期解消には運動だけでは不十分であることもわかりました。

≪掲載論文≫

Yujiro Yamanaka, Satoko Hashimoto, Yusuke Tanahashi, Shin-ya Nishide, Sato Honma, and Ken-ichi Honma.

Physical exercise accelerates re-entrainment of human sleep-wake cycle but not of plasma melatonin rhythm to 8 h phase-advanced sleep schedule.

American Journal of Physiology - Regulatory, Integrative and Comparative Physiology. 2010 Mar;298(3):R681-R691. 

 

高照度光下での運動はヒト生物時計の光に対する位相変化を増強する

この実験では、健常成人男性を対象に8時間の時差(東方)飛行を模倣した時間隔離実験を行い、高照度光下での運動が生体リズム調節に与える影響を検証しました。その結果、高照度光下での運動は、睡眠覚醒リズムとメラトニンリズムを速やかに前進させ、前進した生活スケジュールへの再同調を促進し、睡眠の質も維持することがわかりました。この研究の結果は、海外旅行時の時差ボケの予防、改善策として高照度光と運動を組み合わせることが効果的である可能性を示しました。

≪掲載論文≫

Yujiro Yamanaka, Satoko Hashimoto, Satoru Masubuchi, Akiyo Natsubori, Shin-ya Nishide, Sato Honma, Ken-ichi Honma.

Differential regulation of circadian melatonin rhythm and sleep-wake cycle by bright lights and non-photic time cues in humans.

American Journal of Physiology - Regulatory, Integrative and Comparative Physiology. 2014 June; 307(5): R546-R557. 

 

運動を行う時間帯のちがいが睡眠中の深部体温、自律神経活動に与える影響

良好な睡眠および生体リズムを整えるためには、いつ運動を行うのがよいのでしょうか。この研究では、健常成人男性を対象に6泊7日の時間隔離実験を行いました。運動群の被験者は、朝方(起床3時間後)あるいは夕方(起床10時間後)から2時間の自転車エルゴメーター運動を4日間行いました。実験開始時と運動を4日間行った後で睡眠中の心臓自律神経活動、心拍数、直腸温を比較すると朝方に運動を行った群では、深部体温は実験開始時の体温リズムを維持していましたが、対照群と夕方に運動を行った群では睡眠中の深部体温が上昇していました。また、興味深いことに睡眠中の自律神経活動を比較すると朝方に運動を行った群では睡眠時の副交感神経活動が増加していたのに対し、夕方に運動を行った群では交感神経活動が増加していました。これらの結果は、夕方の運動がその後の睡眠時の交感神経活動を増加させ、睡眠の質に悪影響を与えることが推測されます。

≪掲載論文≫

Yujiro Yamanaka, Satoko Hashimoto, Nana Takasu, Yusuke Tanahashi, Shin-ya Nishide, Sato Honma, and Ken-ichi Honma.

Moring and evening physical exercise differentially regulate the autonomic nervous system during nocturnal sleep in humans.

American Journal of Physiology - Regulatory, Integrative and Comparative Physiology. 2015; 309(9):R1112-R1121. 

 

適切な時間帯での運動は行動リズム、肺と骨格筋の時計遺伝子Period1 発現リズムを調節する

時差飛行のように動物を飼育している明暗周期をある日を境に位相変化させると行動リズムが新しい明暗サイクルへ再同調するには1週間から10日間程度の移行期を要します(+8時間の時差であればおよそ8日間、約1時間/day)。生物発光技術の発展により、生物時計中枢である視交叉上核の再同調は、肝臓や肺などの末梢臓器に比較して素早く完了することが報告され、時差ボケの背後には中枢時計と末梢時計のかい離(内的脱同調)が一因であることが報告されています(Yamazaki et al. Science 2000)。トロント大学のMrosovskyは、明暗サイクルを8時間早めた際に、輪回し運動を3時間行わせることで行動リズムの再同調が劇的に短縮されることを報告していました(Mrosovsky & Salmon, Nature 1987)。そこで、我々は主要な時計遺伝子の1つであるPeriod1 のプロモーター上流に生物発光遺伝子を導入したマウスを用いて、8時間の明暗周期の位相変異を行い、輪回し運動によって末梢臓器のうち運動にかかわる肺や骨格筋のリズムの再同調が促進されることを初めて明らかにしました。この輪回し運動による再同調促進効果は明暗周期を前進したときにのみにみられ、輪回し回転数の回転数と行動リズムの位相変化量とは相関関係がないこともわかりました。

さらに、輪回し運動による再同調促進効果は、運動を負荷する時間帯に依存し、不適切な時間帯の運動は再同調を妨害してしまうこともわかりました。今後、運動に誘発されるどの要因(ホルモン分泌、交感神経活動、神経伝達物質等)が行動リズムや末梢時計の同調因子として作用するのかを検証していくことが必要です。

≪掲載論文≫

Yujiro Yamanaka, Sato Honma, Ken-ichi Honma.

Scheduled exposures to a novel environment with a running-wheel differentially accelerate re-entrainment of mice peripheral clocks to new light-dark cycles.

Genes Cells. 2008 May;13(5):497-507. 

Yujiro Yamanaka, Sato Honma, and Ken-ichi Honma.

Mistimed wheel-running interferes with re-entrainment of circadian Per1 rhythms in the mouse skeletal muscle and lung.

Genes to Cells. 2016 March; 21: 264-274. 

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